6月13日に行われたライジン28の斎藤裕vsウガールケラモフの試合が物議を醸している。
このブログの内容を書き始めた時、にイエローカードの減点で斎藤勝利という情報はなかったため、色々アレやこれやを考えて書いてる途中だった。
無駄にはなってしまったが、せっかく書いたので公開することにした。(笑)
なので、ただの格闘技好きな戯言と思って読んでいただきたい。
物議を醸しているとは言え結局、イエローカードでケラモフに減点があり、斎藤勝利となったが果たしてそれは妥当だったのか?
よく判定基準を理解すればあり得なくはない判定だったのか?
この記事はこれについて書き綴ったものである。
この内容は、中立な立場で中立な表現をするように心がけたが、見る人によっては贔屓しているように感じるかもしれない。
しかし、筆者は特にどちらを応援しているとか、片方の肩を持っているわけでは無い。
あくまで、判定基準や格闘技ならではの主観や印象、それらを一旦脇に置いて、実際に起こった事実で考えないと今回の内容は整理できない。
ただ、予め言わせてもらうと、筆者的にはケラモフ勝利かなという印象。
しかし、結果は逆だったので、なぜ逆になったのか、を少し考察してみよう。
それにあたってMMAにおける判定で気をつけたい事がいくつかある。
①判定基準
① ダメージ
格闘技というスポーツの性質上、ダメージを与えたか否かというのはとても重要なポイントである。
相手を失血させる、ダウンを取る、ふらつかせるなど、見た目でどちらが優勢だったのか判断しやすい。
ただ、打たれ強かったり、効いててもポーカーフェイスで誤魔化したりする選手も多いため、この辺の判断もかなり難しい部分はある。
人によっては効いてなくてもクリーンヒットしてればポイントをつける人もいるし、手数が少なくても1発ドコン!と良い打撃を入れればそれだけで評価する人もいるので、一定の基準があるわけではない。
ライジンでは
「打撃とグラップリングを同じ重みで考え、効果的な打撃やグラップリング(投げ技・サブミッションなど)による試合への影響度を評価する。
試合への影響度とは、ノックアウトやタップアウトなど試合終了につながる可能性のあるダメージやアドバンテージがあったかどうかを意味する。」
と記載されている。
② アグレッシブネス
積極的に攻めているか、試合を動かそうとしているか、それが判断される。
これは、打撃の手数や、タックル、クリンチからの投げなど、自身が勝つための行動をしているかという事を判断される。
そのため、カウンター狙いの場合は手数が少なくなるので、積極性がないと判断されがちである。
タックルや投げも、成功すればポイントに繋がるが、防がれたりすぐに立たれたりするとあまりポイントにならない事が多い。
ライジンでは、
「ノックアウト及びタップアウト等の試合の決着を狙う攻撃についてどちらが上回っていたかを評価する。打撃、投げ、サブミッションなどのダメージ(効果)を評価するものではなく、積極的且つ攻撃的な行為そのものを評価する。」
と記載されている。
③ ジェネラルシップ
UFCではオクタゴンコントロールと言われるもので、いかに試合を支配しているかという判定基準だ。
オクタゴンやリング中央にいる時間が長い、金網やコーナーに追い詰める、打撃で優勢な時間が長い、寝技で支配している時間が長い、などで判断される。
先程のアグレッシブネスと違うのは、アグレッシブネスが直接結果に繋がらなかったとしても、試合を優位に運ぼうとしている所を評価されるのに対し、ジェネラルシップは実際の結果を評価するというものである。
ライジンでは、
「試合のペース、場所、ポジションなどの支配についてどちらが優れていたかを評価する。ただし、スタンドポジション及びグラウンドポジションに占めた時間割合を考慮して評価を行う。」
と記載されている。
④ ラウンド毎の判定なのか、試合全体を通しての判定なのか
これはかなり勝敗を分ける差で、ラウンド毎の判定を例えると
1ラウンド、Aがテイクダウンして、明確なダメージは与えられていないものの、寝技を支配したのでAのラウンド。
2ラウンド、Bが打撃を効かせたのでBのラウンド。
3ラウンド、Aが打撃を貰いながらも、Aがテイクダウンして、明確なダメージは与えられていないものの、寝技を支配したのでAのラウンド。
4ラウンド、Bが打撃を効かせた。
5ラウンド、Aが打撃を貰いながらも寝技で支配した。
となり、一見ダメージではBの方が優勢で、見た目も顔腫らしてるのは打撃を効かされたAの方。
しかし、ラウンド毎にポイントを集計しているので明確にAが寝技でポイントを取ったラウンドが3つあるため、僅差でAの判定勝ち。
こういう結果になりやすいのだ。
この判定の最たる例が、UFC167で行われた、ジョルジュ・サン・ピエール(通称GSP) vsジョニー・ヘンドリックスの試合だろう。
1ラウンドはテイクダウンを取ったGSPで、2ラウンド、4ラウンドは明らかに打撃で優位に立ったジョニー、3ラウンドは危うい場面もあったものの、ジョニーも前に出ずテイクダウンしたGSP、最終ラウンドは終盤でテイクダウンしたGSPが取っていた。
しかし、GSPがポイントを取ったラウンドも、打撃をもらった時のダメージがかなり重いため、あまり印象的ではない。
ただジョニーが前に出ず、手数も少ないためそれならばテイクダウンを仕掛けたり、ジャブや蹴りで手数の多かったGSPのラウンド。まさにそのようなポイントの取り方だった。
一見、試合中のダメージや顔の腫れや、試合全体の流れを見るとジョニー勝利だし、筆者もそう思っていたが、実際はラウンド毎の判定のため僅差でGSPが勝利した。
当時かなり物議を醸した試合で、見返すと確かにGSPがポイントを取ったラウンドもあったものの、試合全体を通してジョニーが優勢だった。
このように、あくまでラウンド毎にポイントを付けるため、印象と実際のポイントが別れる時がある。
逆に試合全体を通しての判定だと、打撃で効かせていたり、テイクダウンの数が多かったりすると、そういった印象が強いため、判定勝ちになりやすい。
要はラウンド毎で見ればポイントにならない、ポイントを取られた試合であっても、明確なダメージや明確な支配が、試合全体通してあれば、判定勝ちしやすいのだ。
先程の例えでは、このラウンドはAが取ったというより、このラウンドはAに取られたが試合全体ではBが明確にダメージを与えていたな、という事で判定勝ちに繋がる事がある。
このラウンド毎か試合全体なのかというのはとても大事なポイントである。
そしてライジンは試合全体を通してどうだったのか?を見る団体である。
⑤ 減点
格闘技ではよくある事だが、意図せず反則をしてしまう事がある。
代表的なもので言うと、目に指が入るサミング、金的に蹴りが入るローブロー、金網やロープ、相手のトランクスを掴む行為などはよく見かける。
これらはだいたい注意くらいで済むのだが、去年の UFCでもローブロー1発で減点だったし、最近は少し厳しくなってきている流れがある。
減点されてもフィニッシュするか完封すれば関係ないのだが競った試合だと大きく響く場合がある。
⑥ 優先度
物事には優先度あるように、判定基準にも優先度がある。
ライジンの場合は、①ダメージ→②アグレッシブネス→③ジェネラルシップの優先度を定めている。
つまり、③を取っていても①を取られて、②が五分五分であれば、判定では不利になりやすい。
選手たちはこの辺を頭に入れたゲームプランを取る必要がある。
⑦ 主観
どこまでいっても判定は人がするので結局ジャッジの主観によって決まってしまう。
いくら判定基準がこういう基準だからと、それに則った試合をしたつもりでも、相手の動きやリアクションによっては、本来の評価に繋がらなかったり、判定基準の解釈や試合の視点によっては別の部分で判断されたりする。
そのため、本来は判定などいかないほうがいい。
試合の決着を第三者に渡した時点で半分負けているようなものだ。
それより勝利を確実にこちらのものにするために、無駄と分かっていても前に出て中央に居座る。
全て防がれているが手数を出す。
テイクダウンする。
逆にテイクダウンされても直ぐに立ち上がる。
など様々な工夫をして戦わなければならない。
そこまでしても判断は個人の主観で決まってしまうので、文句を言っても半ばどうしようないのだ。
クリーンヒットはないものの手数が多ければ評価されたり、テイクダウンしても直ぐに立たれたりするとテイクダウンしてもポイントにならない事がよくある。
MMAの判定とは、判定基準だけでなく、ジャッジの主観をどれだけ理解するか、そして主観をどれだけこちら側に向かせることができるか、これに尽きると言える。
② 斎藤vsケラモフ
判定基準を理解したうえで斎藤vsケラモフを見てみよう。
1ラウンド目、テイクダウンでケラモフ
2ラウンド目、序盤はテイクダウンして漬けたケラモフ
中盤から打撃でダウンを奪い、その後のテイクダウンで2ラウンド終了まで膝蹴りを入れながら漬け続けた斎藤
3ラウンド目、ローに合わせたテイクダウンを再三成功させたケラモフ
全体を通してケラモフが有利ではある
しかし、スタンドでは斎藤の方が中央に居座り、手数も多く、ローとミドル良いのが何発か入っていたので、斎藤が評価されていたかなと。
2ラウンドから3ラウンドにかけてグラウンドでのケラモフは少し消極的だった。
パスガードも強力なパウンドもなく漬ける時間が長かっただけの印象である。
試合全体で見ると打撃で斎藤が押して中央とり、ケラモフが圧力をかけれず下がる場面が目につくが、テイクダウンは全て成功させ、漬けている時間も長いのでケラモフが試合全体では若干上にみえる。
だが、判定は斎藤勝利。
これについて色んな視点で見て、考えていたのだが、斎藤勝利の理由はイエローカードによる減点と、、、(笑)
しかし、イエローカードの減点でこの話が終わってしまったら、ここまで書いてイエローカードの件を知った筆者が浮かばれないので、何とか腑に落ちる考察をしていこうと思う。(笑)
③ 試合考察
この試合で、気をつけたいのは何を持ってしてポイントになったのかということだ。
大方の意見ではテイクダウンしたケラモフが寝技で上になっている時間が長いため判定勝利というもの。
しかし、注意したいのはその先に何をしたのかという事で、テイクダウンしてもその先の展開がなく、すぐに立たれてしまったのならテイクダウンした事実の評価が薄れてしまう。
一方、寝技に持ち込んだケラモフにパスガードやパウンドをさせずに立ち上がった斎藤も視点によっては評価に繋がるだろう。
このテイクダウンを巡る判定は、テイクダウンしたが、あまりアクションを起こさず、すぐに立たれたケラモフは、1ポイント貰えるところを0.5ポイント
テイクダウンされたが直ぐに立ち上がった斎藤は、マイナス1ポイントというより0ポイントを維持。立ち上がり方や下からの動きによっては0.3ポイントほど得たという感覚の方が分かりやすいかもしれない。
つまり、テイクダウンしたケラモフにポイントが無い訳ではなく、そのテイクダウンが相手に直ぐ立ち上がられたり、その先の展開が無かったために、評価には繋がっているが本来程の評価ではなかった、という事なのでは無いだろうか。
とは言え、テイクダウンを取っていることは事実なのでそこは評価されるべきで、実際スプリットの判定という事は評価されているという事だろう。
もし評価されてなかったら、打撃でダウンを奪われてサッカーボールキックを貰い、手数も少なめだったケラモフが勝つ要素は無いと思う。
では、斎藤はどうかと言うと、テイクダウンはされたものの、直ぐに立ち上がったり、相手に寝技で何もさせず、スタンドでもケラモフに負けていなかった。
途中からケラモフは斎藤と打ち合うより、さっさと寝技に行きたいような動きや狙いになっていたように見えた。
ライジンの判定基準では、①ダメージ、②アグレッシブネス、③ジェネラルシップの順で優先度が定められている。
ライジンの判定基準で見ると
①はダウンとサッカーボールキックに加えて2ラウンド中盤から終盤にかけてグラウンドでの膝で斎藤
②はスタンドで圧力をかけて中央に居座り手数も多かった斎藤
ケラモフはスタンドではほぼ下りっぱなしで、グラウンドでも2ラウンドからはほぼパスガードする素振りはない
しかし、テイクダウンに行く回数がかなり多かったのでケラモフも②は取ってるので、②は五分五分かテイクダウンの回数で若干ケラモフ
③は試合全体を通してグラウンドの時間が長かったケラモフ
そう考えると、ある程度基準に沿った判定とは思えないだろうか?
テイクダウン云々の話は一旦置いておいて、冷静にこの試合を見ると
寝技に行きたいケラモフ
寝技に行くこと自体は成功するものの、特に自分からパスガードや打撃を打たず、直ぐに立たれて、ダウンを奪われ、サッカーボールキックされたケラモフ
テイクダウンはされるものの、すぐに立ち上がったり、ケラモフに寝技でパウンドやパスガードをさせず、打撃でダウンを奪ってサッカーボールキックをした斎藤
こういう構図ではないだろうか。
それならばライジンの判定基準で考えた時に斎藤が僅差で勝っているという判定になったのかなと。
ただ、筆者は割れてるけど僅差でケラモフ勝利かなという感じだった。
この試合については大沢ケンジさんが分かりやすくYouTubeで解説しているので、是非見てほしい。
その後でライジンの判定基準を読み、試合を振り返れば斎藤勝利の判定はそこまで理不尽なものではないと思えると思う。
ただ、実際はイエローカードの減点で斎藤勝利だったので、筆者の見方は間違っていたのだが(笑)
すぐに立ち上がられて、寝技をするためにテイクダウンしたのに寝技で大きな動きがない。
ただテイクダウンしただけで勝てるならレスリングやサンボの選手が簡単に勝ってしまうし、そもそもMMAじゃなくていい。
テイクダウンが評価されるのは当たり前で、その先何ができるか、何をできたのか、そして試合全体で寝技以外の部分ではどうだったのか、様々な視点で見た時にテイクダウンの評価や、打撃の評価というのは本来の評価には至らないことがあったりする。
なお、この結果をみてこれで斎藤が勝つなら、朝倉vs斎藤の判定が斎藤勝利になったのがおかしい!と言われる事が多かった。
これについては、似てはいるもののそもそも試合内容が違うので、判断基準にならない、比較材料としては薄いと思っている。
確かにテイクダウンする事が多かった斎藤に対して打撃で優位に立った朝倉。
そしてテイクダウンして特にパウンドでダメージを与えたシーンもなく、すぐに立たれる事が多かった斎藤。
テイクダウンしても直ぐに立ち上がる朝倉。
この構図は今回の斎藤vsケラモフに通じる部分もある。
しかし細かく見ていくと
カウンター狙いで手数の少ない朝倉。
朝倉の打撃にビビらず、中央取り返したり、手数を出しながら前に出た斎藤。
テイクダウンの数が多い斎藤。
すぐに立つ朝倉。
という内容。
これに関しては、①は打撃で効かせる場面があった朝倉、②は打撃でも前に出て手数もあり、テイクダウンを狙った斎藤。③は、テイクダウンした時間が長く、カウンター狙いで下がるシーンもあった朝倉に対して前に出る斎藤が③も取ったのだろうと思う。
朝倉vs斎藤は、斎藤vsケラモフで言うところのケラモフが斎藤、斎藤が朝倉。
だから朝倉が勝ちじゃ無いとおかしく見える。
だが、実際は手数が多く、前に出て積極的にテイクダウンして、寝技で漬ける時間も長かった斎藤にポイントが入っての勝利と考えると、まぁ理解はできるかなと。
それ故に今回の斎藤vsケラモフと直接比較するのはナンセンスかなと筆者は思う。
このように、MMAの判定というのはそもそも判定基準が試合中、明確に判断しにくく、ジャッジの主観で判断せざるを得ない。
そのため、ジャッジの主観と判定基準を理解した上で試合を進めなければならない。
要は、打撃でダウンを取ったから勝ちだろうとか、テイクダウンしたから勝ちだろうとか、そう単純なものではないという事だ。
良い打撃が入っても相手がポーカーフェイスで逆に前に出てきたら、その打撃の印象は自身が思うよりも高くないし、テイクダウンしても直ぐに立たれたり、何もアクションがなければ積極性にかけると判断され、あまりポイントにならない。
そういう意味では、斎藤やGSPという選手は判定に強い選手と言える。
冷静に事実だけを見て判定基準も踏まえながら試合見ると、一見負けてるように見える彼らの試合も、ジャッジによってはジャッジなりの主観と判定基準があってその判断によって勝利できたと言える。
そのため、一つ一つの流れを判定基準と照らし合わせて、観戦するのも面白いと思う。