昨年末に行われたUFCライト級タイトルマッチ
チャンピオン、チャールズ・オリヴェイラvsライト級1位ダスティン・ポワリエ
UFCの苦労人同士のタイトルマッチで筆者も含めて誰もが両方に勝って欲しいと願ってしまうような試合だった。
① 選手紹介
UFC世界ライト級王者
チャールズ・オリヴェイラ
バックボーンのブラジリアン柔術で培ったグラウンド技術と極めの強さ、長身を活かしたムエタイの打撃で主導権を握るUFC随一のフィニッシャー。
最多フィニッシュ勝利数と最多サブミッション勝利数を同時に保持するグラップラーだ。
UFC世界ライト級1位
ダスティン・ポワリエ
無尽蔵のスタミナと人間離れした打たれ強さ、ライト級屈指のボクシング技術にブラジリアン柔術黒帯のグラウンド力を併せ持つオールラウンダー。
2戦連続コナー・マクレガーとの試合に勝利しておりライト級最強クラスの打撃技術を見せつけた。フィニッシュ勝利も多く、勝っても負けても名勝負を作ってくれるため人気も高い。
ムエタイ&ブラジリアン柔術スタイルのオリヴェイラとボクシングとレスリング&ブラジリアン柔術を駆使するオールラウンダーのポワリエ、現代MMA最高峰の攻防を振り返ってみよう。
② 試合内容
オリヴェイラが前に出て圧力をかける展開から始まる。
試合展開としては、前に出て圧力をかけるオリヴェイラに対してボクシングで迎撃するポワリエという構図。ここでこの試合でよく見られた動きとして、オリヴェイラが首相撲と前蹴りを多用してゲームを組み立てていたことだ。
(オリヴェイラの前蹴りと首相撲。施行回数が多かったのでゲームプランだったと思われる。)
オリヴェイラは前に出ながら前蹴りを打ち、近くなれば首相撲で削っていくプランのようだった。恐らく打撃戦は首相撲を軸に考えていたのだろう。前蹴りを何度も打っていたのでこれは、相手の上体を上げさせる効果を期待していたと思う。上体が上がればタックルに入りやすくなるし身体が伸びるので首相撲をかけやすくなるため、オリヴェイラのスタイルにピッタリ合うプランだったのだろう。
一方、ポワリエは左ストレートと右フックを多用しボクシングを軸に試合を組み立てていた。
ムエタイスタイルでスタンスが狭く、寝技が強くて下になることを怖がらないオリヴェイラにカーフキックは効きにくく、タックルは寝技になるとオリヴェイラの独壇場となるので、タックルに入れない。そのため、ボクシングでアドバンテージを握り、カーフを蹴らないことで蹴り足を掴んでのテイクダウンを防ぐことでオリヴェイラを消耗させる作戦だったと推測できる。
ポワリエの左ストレートをオリヴェイラは見えておらずかなり被弾していたし、右フックで2度ダウンを奪っている。特に2度目のダウンは明らかにダメージのあるダウンでありポイント的にもかなり大きい。
ここでオリヴェイラのオープンガードの中にポワリエが入るが少し組手争いをするとすぐに自分から立ち上がりスタンド勝負に戻した。恐らくここが勝敗の別れ目だったと思う。
寝技をしたいオリヴェイラ、フィニッシュしたいポワリエだが、ここで寝技に付き合わずに立ち上がったポワリエは一見、打撃戦の方がより確実だからスタンドに戻したように見えるが、逆の見方をするとポワリエはオリヴェイラと寝技をしたくない。つまりオリヴェイラの寝技にビビっていると見ることもできる。恐らくオリヴェイラ陣営はそれを見抜き、2ラウンドからゲームプランをガラっと変える。首相撲を軸に試合をしていたオリヴェイラか前蹴りでポワリエの上体を上げさせてタックルに入る動きに切り替えたのだ。これは完璧に寝技を軸にしたプランに切り替えた証拠である。
前蹴りで上体を上げてパンチを打ってディフェンスさせたところをタックルに入る。テイクダウンできなくてもスタンディングバックを取ればそこからフィニッシュできるし、相手が抵抗すれば自分から下になって無理矢理寝技に引きずり込む。
相手の投げにカウンターで下になりながら腕と首に足をかけて三角からオモプラッタ→足を掴んでスイープ→オープンガードオフェンスへという流れを組み際に瞬時に変更して実行しているのが見事だった。
ここからはずっとオリヴェイラのラウンドだった。ボディにパンチを入れながら手を抜き変えて肘を落とし、相手の喉を肘で押さえつけて削っていく。ポワリエは下手に立とうとするとオリヴェイラがカウンターでパスガードやサブミッションを仕掛けてくると考えてクローズドガードからボディロックをかけてガチガチに動きを固めてブザーがなるまで耐える作戦に出る。これが最も大きいミスだったと思う。
オリヴェイラに寝技に持ち込ませれば勝てると完全に理解させてしまった。結果的に3ラウンドも前蹴りで上体を上げさせてタックルに入られ、スタンディングバックを取られて、おんぶチョークで一本負け。
苦労人オリヴェイラが初防衛に成功した。
ライト級でチャンピオンクラスの実力者と見られていたダスティン・ポワリエに文句のつけようのない完勝で初防衛に成功したオリヴェイラ。
オリヴェイラの長身とバックボーンの柔術、それを活かすためのムエタイ。正直、現時点で穴が見えない。もしオリヴェイラに勝つなら寝技でオリヴェイラを上回って上から押さえ込んで殴り続けるか、一撃で意識を刈り取るしかない。そういう意味では連打型のポワリエは相性が悪かったかもしれない。
総じてセコンドの差が出た試合と筆者は思った。自分の武器を磨き、それとは別に武器を増やした状態で試合に臨む。相手の出方を分析し、勝ち筋を誤らずに見つけ出し、それを選手に実行させる。
1ラウンドにスタンドに戻った時からオリヴェイラ側のセコンドはポワリエが寝技に自信がないことを見抜き的確なアドバイスをしたのだ。一方ポワリエ側のセコンドはオリヴェイラ側の思考を読み取れなかったため2ラウンドに削られすぎて負けてしまった。
あとATTというチームは見ていて相手の対策に膨大な時間をかけていて長所を伸ばしたり武器を増やしたりする事にあまり重点を置いていないように見える。マスヴィダルやポワリエも自分から勝ちパターンに近づく武器を持ち押しつけていくよりも相手の対策を練ることに重点を置いているように見える。ここに明確に勝敗の分かれ目があったように感じた。
この試合は始まる前から両者のジムの育成環境とセコンドの差で勝敗がついたといっていいだろう。