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UFC261

アメリカで行われたUFC261

久しぶりに観客を入れて行われた内容は、チケット全てソールドアウトし、フル観衆の大会で3タイトルマッチという豪華ぶり。

試合結果はほぼ全ての試合が完全決着で、満員の会場が最高に興奮する内容だった。

興行的にも大成功で、今や世界中から神興行と言われている。

 

今回、話そうと思うのはメインイベントのUFC世界ウェルター級王者 カマル・ウスマン VS UFC世界BMF王者 ホルヘ・マスヴィダル

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(画像はUFC公式Instagramから)

BMFとは、Baddest・Mother・F**ker(バッディスト・マザーファッカー)の頭文字から来ている。

つまりは、世界一のワルということだ。

 

① 簡単な選手紹介

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(画像はUFC公式Instagramから)

 

王者 カマル・ウスマン

 

レスリングをバックボーンに持つ絶対王者

さらにアフリカ国籍者、史上初のUFC世界王者。

リーチが身長より長く、その長いリーチを活かしたボクシングで間合いとペースを握り、隙があればテイクダウンしていく。

 

特にケージレスリングの強さはウェルター級の中でも随一である。

レスリングのディビジョン1でオールアメリカンを獲得し、UFC王座を4度防衛中だったタイロン・ウッドリーをケージレスリングで圧倒し、何度もテイクダウンを取るなど、優れたレスリング技術を持っている。

現在のウェルター級で最強のレスラーだろう。

MMAのキャリアにおいてテイクダウンを奪われた事は一度もない。

テイクダウンディフェンス率100%というとんでもないレスリングモンスターだ。

 

さらに、プロボクサー顔負けのボクシング技術も持ち合わせている。

特にジャブとストレートの精度は極めて高く、打撃系の選手よりも優れていると筆者は思っている。

実際に柔術世界王者ギルバート・バーンズとレスリングオールアメリカンでボクシング技術の高いコルビー・コヴィントンをジャブとストレートで打ち勝っている。

 

実際に試合を見てもらえれば分かるが、ジャブとストレートの鋭さは凄まじいキレがあり、この高いボクシング技術とレスリングを組み合わせた典型的なボクレススタイル(北米スタイルとも言われる)の選手である。

 

 

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(画像はUFC公式Instagramから)

 

挑戦者 ホルヘ・マスヴィダル

ストリートファイト出身のストライカー。

全米最強の喧嘩屋。そのイエス・キリストのような見た目と、ストリートファイト出身という経歴から、ストリートジーザスと呼ばれている。

 

こちらは分かりやすいストライカーで、強烈なミドルキックと膝蹴り、フックを得意としている。

構えはムエタイを彷彿させる両腕を上げて、足を上げてリズムを取りながらステップを刻み、ジャブやミドルキックを撃ち込みながら試合を作っていく。

ミドルキックやジャブなどの遠距離だけでなく、中間距離のフックやストレートに加え、至近距離の肘打ちや膝蹴りなども必殺の威力で、苦手な距離がないストライカーだ。

 

さらに打撃一辺倒という訳ではなく、きちんと組技も寝技も高いレベルの技術を持ち合わせているオールラウンダーである。

ただ本人は打撃戦を好んでいるため自分から組技や寝技はあまりいかない。

 

昨年、全米で最も危険な都市、ストックトン出身でストリートファイト上がりのギャングスター、ネイト・ディアズと世界で一番のワルを決めるため、BMFベルト=Baddest・Mother・F**ker(バッディスト・マザーファッカー)をかけて戦い、打撃戦でネイト・ディアズを圧倒し、世界初かつ世界唯一のベルトBMFベルトを腰に巻いた格闘家だ。

名実共に世界最強の不良である。

 

② 試合予想

実は両者は既に一度戦っている。挑戦者ギルバート・バーンズが新型コロナウィルスの陽性反応により、タイトルマッチに出場できなくなり、急遽試合6日前に代打としてマスヴィダルがウスマンに挑戦。

結果は5ラウンド、ウスマンの判定勝ち。当然と言えば当然。

 

そして今回もウスマンの判定勝ちと思っていた。

ウスマンのあの精度の高いジャブとストレートを相手にして、いくらマスヴィダルがストライカーでも打撃戦でもアドバンテージを取れないだろうし、組技、寝技はウスマンの土俵。

となればウスマンの判定勝ちが安定。

そう、試合が始まるまでは世界中の誰もがそのように予想していた。

 

③ 試合結果

 

結果は衝撃の2ラウンド、ウスマンのKO勝ち。

誰が試合前にこの結果を予想しただろうか。

カマル・ウスマンと言えばしつこいケージレスリングで相手のスタミナを削り、寝技で相手を押さえつけながらパウンドを撃っていく、ミスター塩漬けと呼ばれ判定決着(実際は初防衛戦のコヴィントンにTKO勝ち、前戦のバーンズにTKO勝ちと、フィニッシュ率も高い)ばかりのイメージがあるウスマンが、全米最強の不良ストライカーのマスヴィダルを2ラウンドという速い段階で失神させるとは。

 

④ 試合内容

 

試合の流れは、ローキックと関節蹴りから入るマスヴィダル。

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それに対して左右のステップを繰り返しながらタックルのフェイントを入れるウスマン。

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(タックルのフェイントを仕掛けるウスマン)

 

ウスマンがタックルのフェイントからジャブに繋げていく。f:id:sprite289:20210503000304p:image
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序盤はこの展開を繰り返して徐々にペースを握っていったのはウスマンだった。

ストライカーのマスヴィダルとしては、レスラーのウスマンにタックルされたり、寝技に持ち込まれたりされたくないため、タックルは常に警戒しなければならない。

そのため、タックルのフェイントに反応してしまい、というより反応しなければタックルされてしまうため、タックルのディフェンスをせざるを得なくなり、結果ジャブが入る。

この動きでペースを握られたマスヴィダルは接近したウスマンに膝蹴りを放つが組みつかれてしまい、クリンチからテイクダウンされてしまう。

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下から両足を相手の背中でクロスさせ、上になっている相手の動きを制限させるクローズドガードをして凌いだり、隙をみて相手の太ももを蹴って立ち上がろうとするマスヴィダルf:id:sprite289:20210503002058p:image
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(左足を相手の右足の太ももに乗せて蹴ってスペースを作ろうとするマスヴィダル)

 

しかし、ミスター塩漬けウスマンはそれを許さない。

相手がスペースを作ろうとすると頭を相手の顎に押し付け殴りながらウスマンが前進していく。

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(マスヴィダルが作ったスペースを利用し、右の肘打ちを打ち下ろすウスマン)
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グラウンド&パウンドのお手本のような動きをするウスマンがこのラウンドを支配した。

 

2ラウンド目もウスマンがタックルのフェイントからジャブを撃ち込む展開から始まる。

このラウンドになるとマスヴィダルのローキックを、ウスマンが後ろに下り空振りさせてディフェンスをしていく。

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(マスヴィダルの右のローキックを左足を後ろに下げて空振りさせるウスマン)

 

そして、ジャブから相手のガードを払いのけて右のストレートを顎に撃ち込み、ウスマンがKOでストリートジーザスを葬った。

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完璧な勝利だった。

打撃戦を制し、寝技で組み伏せ、最後は打撃で失神させる。

見事。本当にウスマンは強い。

 

⑤ 解説

 

この試合を決定づけたのは、主に2つ

 

1つ目は、ウスマンの左右に動くステップ。この時に時折構えを左右入れ替えたりしている。

これはローキックそして今流行りのカーフキックの対策である。

 

ローキックは、相手の足の位置が自分の正面に近い位置にあると蹴りやすい。大きく左右にズレていると踏み込む位置や角度を変えたり、蹴り足を変えたり、工夫しなければならない。

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(自分の正面に相手がいれば比較的ローキックは蹴りやすい)

 

しかし、ウスマンは左右に動くことで的を絞らせず、ローキックを蹴りづらい角度に移動していた。

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(相手の正面から右に移動するウスマン)
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(右から左にズレるウスマン)
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これをする事でローキックを撃ちづらくさせ、蹴られても空振りさせやすくなる。

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(ローキックを空振りさせるウスマン)

 

これによって得意のローキックを封じられたマスヴィダルは距離感とペースを握る事が出来なくなった。

 

2つ目はタックルのフェイントを多用した事。

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普段からタックルのフェイントを多用するウスマンだが、バーンズ戦に比べて明らかに多い。

試合開幕の最初のアクションが遠い間合いからのタックルのフェイントだった。

明らかにタックルには来ないだろうという遠い間合いからでもフェイントを入れていったのがミソで、1戦目のケージレスリングの印象も含めてマスヴィダルにはタックルの意識が強く刻まれた事だろう。

 

これにより、タックルをされたくないマスヴィダルはタックルへの警戒が生まれる。

その警戒心が打撃への対処を遅らせてしまう。

ウスマンはこのタックルのフェイントからのジャブとボディストレートを多用していた。

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(タックルのフェイントに反応して両手のガードを頭から腰へ下げたマスヴィダル。)

 

この動きでローキックを封じられる事で自分のリズムを掴めず、逆に相手のタックルやジャブに反応してペースを握られてしまったのが敗因に繋がっていく。

 

何よりストレートやジャブ、ボディストレートのキレが凄まじい。

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特に相手の攻撃に対してカウンターをフックで撃つマスヴィダルの癖をウスマンは見抜いていたのだろう。

パンチを撃って接近した時はフックを交わすため頭を低い位置にしていた。

 

最後のフィニッシュブローの際も打ち終わりは頭の位置が低くく、マスヴィダルはストレートに対しフックを振っていたので、ウスマンの読みは当たっていた。

 

ついでにタックルにも入りやすいためウスマンのゲームプランにも噛み合っていた。

 

マスヴィダルからすると、タックルを警戒しながら打撃で倒さなくてはならないのに、タックルのフェイントからキレのあるジャブとボディストレートを混ぜられ、フックでカウンターしようにも頭の位置が低く、膝蹴りは同時に放たれているジャブとボディストレートで邪魔をされてテンポが遅れてしまう。強引に撃っても1ラウンドのように組みつかれてテイクダウンされる。

こんな中ジャブからガードを払い除けられてストレートを撃ち込まれるのだからたまったものじゃない。

まさにウスマンの作戦勝ちと言っていいだろう。

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試合後のインタビューで、フィニッシュの右ストレートは2種類用意していて、1つは通じなかったので、2つ目でフィニッシュできたと、ウスマンは語っていた。

 

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このタックルのフェイントからジャブ→ストレートに繋がる動きはとても精度が高い。

用意したのはこのタックルのフェイントからのストレートではないかと思う。f:id:sprite289:20210503005828p:image
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これはディフェンスをされていたので通じなかったのだろう。

 

このようレスリングを囮にしてボクシングで勝負をし、組技になったらレスリングを使うという風に、勝利への道筋をフローチャート化できている。

ゲームプランが明確であるため、素早い判断を可能にしている。

これがウスマンの強さの秘訣だろう。

 

⑤ 総括

 

あれだけのレスリング技術を持つウスマンが、これだけ精度の高いボクシング技術を持っているのは驚異的だ。

打撃だけでは打撃系の選手に勝つ事はできないが、レスリングという強い武器がある事で、相手の打撃に対する注意が薄れて間接的に打撃戦で優位に立てる。

レスリングを活かしてボクシング活かし、ボクシングを活かすことでレスリングが活きる。それを証明したような試合だった。

 

この試合内容を見る限り、これからも当分はウスマンの政権が続いていくだろう。

 

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(画像はUFC公式Instagramから)