ライト級タイトルマッチ。
UFC VS ベラトール
北米スタイル VS 南米スタイル
そう言った見方もできて面白い。
両者ともバックボーンは柔術とレスリングというグラップラーだが、実際のファイトスタイルはオリヴェイラはムエタイをチャンドラーはボクシングを使って打撃で戦っていくスタイルだ。
そんな両者を見ていこう。
① 選手紹介
UFCで10年以上戦い続ける古豪、柔術が強く、フィニッシュ率の高い危険なファイターだ。
スタンドでは長いリーチを活かしたムエタイでスタンドの打撃戦を行い、組技になったら柔術のテクニックでバックを取ったりして攻めていく。
特に柔術の強さはライト級随一で、レスラーにタックルされてもそのままギロチンに取ったり、ダースチョークに入ったりできるので、迂闊にタックルに行くとカウンターで決められてしまう。
なら打撃で勝負しようにも長身のリーチからムエタイを使ってくるので一筋縄ではいかない。
このブログで紹介しているが、まさにムエタイとブラジリアン柔術を使う南米スタイルの象徴と言える選手だ。
元ベラトールライト級王者 マイケルチャンドラー
世界第2位の総合格闘技団体ベラトールで3度王者になっているMr.ベラトール。ベラトールと言えばチャンドラーという程の知名度を誇る。
圧倒的なフィジカルと閃光のようなスピードでフィニッシュブローを放ちまくるKOマシーンだ。
バックボーンのレスリングの強さは勿論のこと、特筆すべきはスピードとパワーを両立している事だ。
あのパワーをあの瞬発力で放ってくるのだからたまったものじゃない。
しかも、全く後ろに下がらずガンガン前に出てプレッシャーをかけてくる。
パンチを警戒するとレスリングがあるし、かと言ってレスリングを警戒していて打撃で勝てる相手ではない。
このブログでも紹介しているが、ボクシングとレスリングを主体としている、北米スタイルの代表格だ。
② 事前予想
予想ではチャンドラーのKO勝利としていた。
理由は、寝技が強いオリヴェイラのタックルをレスラーのチャンドラーはディフェンスできる確率が高く、打撃戦でオリヴェイラが圧倒できるほど差があるかと言われたらそれほどではない。
むしろ全てのパンチがKOパンチのチャンドラーの方が有利と思っていたからだ。
ただ、これもブログに書いてあるが、何となく虫の知らせでオリヴェイラが勝ちそうな気がしていた。ただ、勝って欲しいのはチャンドラー。
それが現実のものとなる。
③ 試合展開
ファイトの合図と共にオクタゴン中央に突進する両者。
開幕最初の1発はオリヴェイラのカーフキックだった。
これも大方の予想通り。
足のスタンスが広いチャンドラーにカーフキックはとても効果的であり、対策として必ず用意していると思っていた。
カーフキックがクリーンヒットして、足を流され膝を突くチャンドラー。
それでも構わず前に出続けるチャンドラーがボディストレートを打っていくも、微妙に距離が遠い。
しかし、レベルダウンを使ってタックルのフェイントとボディストレート意識させながらどんどん前に出ていき、左フックをオリヴェイラの顔面にヒットにヒットさせる。
一瞬効いたような素振りを見せてさらにもう1発左フックを打ち込まれるオリヴェイラがタックルを合わせていく。
完璧なタイミングのタックルに対してカウンターでギロチンを合わせるチャンドラー。
しかし、これを凌いでオリヴェイラの時間が始まる。
ギロチンから脱出したオリヴェイラがすぐさまバックを取り、足をフックさせてポジションを固定していく。
チャンドラーも負けじと反転し、上を取り返してパウンドを落としていくが、オリヴェイラもオープンガードから関節蹴りを蹴って対応していく。
ここでチャンドラーがスタンドに戻させて、レベルダウンからタックルのフェイントを入れながら、ボディストレートを打ちながら前に出ていき、左フックがヒット!
金網に詰まるオリヴェイラがさらに右ストレートも被弾して前に倒れ込む。
強烈なパウンドを浴びせられるも、仰向けになりオープンガードから足を使って凌ごうとするオリヴェイラ。
チャンドラーもクローズドガードに飛び込みパウンドを落とし続けるが、ブザーが鳴り1ラウンドが終了。
パンチを効かされてタックルに入ったオリヴェイラが寝技を支配したが、その時間と同じくらいの時間、チャンドラーがパンチでダウンを奪い、パウンドを落とし続けていた。
このラウンドはポイントが割れたと思う。
2ラウンド開始早々お互いオクタゴン中央に出ていき先に仕掛けるチャンドラー。
しかし、オリヴェイラも反撃をしていき、オリヴェイラの左フックがヒット!
そのまま効かされて金網に詰まるチャンドラーをオリヴェイラが走りながら追撃していき、パウンドで目が飛んでいたのを確認してレフェリーが試合をストップ。
チャールズ・オリヴェイラがUFC11年目にしてライト級の新王者に輝いた。
④ 解説
ボクシング+レスリングのチャンドラーに、カーフキックが有効だろうというのは大方の意見で筆者もこのブログの予想で話していた。
そしてそのままオリヴェイラが開始早々にカーフキックを効かせたが、ここで普通と違ったのはチャンドラーの圧力が全く変わらず、より一層前に出てきた事だ。
1ラウンドを優勢にできたのは、ここで下がらずに前に出たチャンドラーの強靭なフィジカルとメンタルが大きい。
ここで下がっていたら簡単にオリヴェイラの試合になっていただろう。
特に、蹴り足を掴んでパンチを打つ行為は蹴りを出させるのに躊躇させるのに効果的だ。
そしてチャンドラーはある程度距離を取り、カーフを何度かすかして距離感を掴むと、正面より少しズレた位置取りをしながら頭を下に垂直に落とすレベルダウンからタックルとボディストレートを打ちながら、カーフが当たる距離に入り、すぐさま当たらない距離に逃げるというフットワークを非常に多く行っていた。
カーフを打ちにくい位置にいて、距離が詰まったと思ったら一瞬で射程外に逃げる。
これを行う事でオリヴェイラに的を絞らせず、さらにレベルダウンがタックルを警戒させ、ボディストレートを多用する事で、タックルなのかボディストレートなのか読ませないように攻めていたのもポイントだ。
特にチャンドラーは重心を下に下げて踏み込みながらボディから左フックに繋げるコンビネーションを得意としているので1ラウンド序盤、これをオリヴェイラは貰ってしまっていた。
2発目の左フックがヒットした時にオリヴェイラの右目の目尻がカットしている。
打撃で若干効かされ、距離が詰まったオリヴェイラは流れを変えるためにタックルに入りテイクダウンに成功する。
ここが1つのキーポイントだったと思う。
詰将棋のような寝技ですぐにバックを取るオリヴェイラにチャンドラーは冷静に対処しつつもやはりオリヴェイラの寝技は警戒しなければ一瞬で試合を決めかねない力を感じたのではないかと思う。
バックからリバーサルして上を取り返しスタンドの勝負に戻したチャンドラーが再び左フックから右ストレートをヒットさせる。
その後のパウンドは並の選手だったらそのまま仕留められていただろう。
それほど強烈なパウンドだった。
ここが2つ目のキーポイントで、オリヴェイラはパウンドをされている時に立ち上がったりタックルに行ったりせずに、自分から仰向けになりオープンガードに引き込んだ。
ここがポイントで、この効かされた状態で立ち上がってしまうと、平衡感覚が無くなっているため真っ直ぐ立てずに金網際ということも重なって一気に攻め込まれていただろう。
これは随分前に別の試合で解説の高坂さんが言っていた事だが、『寝技でパウンドを効かされて平衡感覚がなくなってしまってても、寝ているので本人は気づかなく、意識はあるのでそのまま試合を行えたりする。試合が終わり立ち上がった時に、フラッとして足を踏ん張る動作をする事が多いのだ』と
これと同様の事がここでも言える。
1ラウンドに打撃で効かされたオリヴェイラは、自ら仰向けに寝ることで平衡感覚のズレを無視した凌ぎ方ができていた。
これが立ち上がったり、タックルに行っていたら、凌げなかっただろう。
これとは逆に2ラウンドにパンチを効かされたチャンドラーはすぐに立ち上がったが、平衡感覚が失われていたため、金網に背を預けなければまともに立つ事ができず、次々とパンチを貰い走って逃げようにも平衡感覚がなく、効かされているので、すぐに倒れ込みパウンドアウトしたのだ。
(ピンチの時にオープンガードを選ぶことができたオリヴェイラと回転して立ち上がるしかなかったチャンドラー。この選択が勝敗の明暗を分けた。)
そして1番のキーポイントが、チャンドラーが貰ってしまった左フックだ。
試合を見てもらえれば分かるが、この時のチャンドラーはキチンと上体が立っていて、何なら左フックを打つために身体を振って左手もフックの形を作っている。
しかし、ここで一瞬躊躇したのか、そのまま左フックが出なくて、逆にオリヴェイラはそのまま左フックを叩き込んだ。
なぜここでチャンドラーが左フックを出さなかったのか?
いくつか考えられる要因としては
① 距離を見誤った。
オリヴェイラはライト級でもかなりの長身であり、普通の選手より頭の位置がかなり高い。
チャンドラーと比べても歴然の差である。
撃ち合いの最中、当たると思っていた距離が一瞬、アレ?当たるか?これ?と思ってしまったのかもしれない。
② タックルを警戒
1ラウンド序盤に左フックで効かせたチャンドラーにカウンターのタックルでテイクダウンを奪ったオリヴェイラ。
この後の寝技の上手さは初めて格闘技を見る人でも分かるような寝技の強さだった。
一瞬でこの時と同じシチュエーションをフラッシュバックしたチャンドラーが、ここでこのまま左フックを打つとまたカウンターでタックルに来るかもしれない。そう思って躊躇した可能性もある。
③ チャンドラーのガードの甘さ
そもそもチャンドラーはあまりガードが高くない。
腰を落とし、両手もやや下げた位置に置き、スピードを活かしたフットワークで出入りを繰り返しながらプレッシャーやフェイントを入れて隙を作って突進していく。そういうスタイルの選手だ。
パトリシオ・ピットブルと戦った時も突っ込んだ時にカウンターをもらってしまったように、実はディフェンス面はあまり上手ではない。
ガードをガチガチに固めてジリジリ距離を詰めるのではなく、ガードを若干下げて、パンチやタックルのフェイントを入れながら、とんでもない瞬発力から来る閃光のようなスピードのフットワークで、バックステップしたり、パンチのフェイントや予備動作をしながら飛び込む事で相手を後ろに下がらせて攻撃をさせない、もしくは弱い攻撃にさせていく。
攻撃は最大の防御という言葉があるように、ガンガンプレッシャーをかけて相手を下がらせる事。それがチャンドラーにとってのディフェンスであり、オフェンスなのだ。
前戦のダン・フッカーと違い決して下がらなかったオリヴェイラがよくチャンドラーを研究していたと言える。
下がってしまうと、ダン・フッカーのように攻め込まれて、いつかフィニッシュブローを貰ってしまう。
チャンドラーの圧力に下がらなかったのが特に大きい。
これはつまり、チャンドラーのオフェンスもディフェンスも機能していなかったということだ。
これらの要因は、恐らく1つだけではなく、様々な可能性がチャンドラーの頭を駆け巡り、あのタイミングで左フックを出すことを躊躇させたのだろう。
左フックを躊躇したチャンドラーに対して、甘いディフェンスの隙を見逃さなかったオリヴェイラが1枚上だったのかもしれない。
あのまま左フックを打っていたら先に当たっていたのはチャンドラーだったと思うので、勝敗は逆になっていたのではないだろうか。
⑤ まとめ
世界最強の男ハビブ・ヌルマゴメドフが引退し、空位となったライト級タイトル。
それを手にしたのはUFCで11年、日の目が当たらなかったチャールズ・オリヴェイラだった。
解説の高坂さんも仰ってたが、UFCで11年、勝ったり負けたりを繰り返し、階級も変え、8連勝を達成した先にヌルマゴメドフの引退劇。
本当に運命のようなサクセスストーリーだ。
全てがこの為のような歯車の噛み合い用だった。
打撃だけでなく、寝技も必殺を持っているという事がいかに強いかを思い知らせてくれる内容だった。
寝技が必殺だからこそ、打撃がより必殺になる、これからのMMAは武器は二つ以上ないと生き残れないのかもしれない。
UFC VS ベラトール
北米スタイル VS 南米スタイル
その結末はUFCで南米スタイルを代表するチャールズ・オリヴェイラに軍杯が上がった。