ベラトールバンタム級タイトルマッチ
チャンピオン セルジオ・ペティス
挑戦者 堀口恭二
この試合はライブで見ていたが、あまりにショックを受けてその日の仕事は全く身が入らなかった。
あれだけ圧倒してた内容で逆転負け。
この日心が折れた人は筆者だけではないだろう。
解説の川尻さんも言っていたが、ペティスの不気味さに恐怖を覚えていたのは誰もが感じ取っていたのではないだろうか。
それほどペティスの動きは普段と違っていた。
ガードを固めて、あまり手は出さず、堀口のフェイントにも極力反応しないようにして常にプレッシャーをかけ続ける。これをすることで、堀口の運動量を増やしてどんどん消耗させていった。
試合内容自体は堀口が圧倒しており、格下とやっているように見えたし、実際ポイントも大差がついていただろう。
しかし、正直この試合に見るほど堀口とペティスに実力差はないと思っている。
何故なら堀口のスタイルは堀口しかいないし、非常に完成度の高いスタイルであり総合力の高いMMAファイターだからだ。
逆説的だが、ペティスは自分から攻撃をしかけず、カウンターも必要最小限にとどめることで、致命的なダメージや攻撃を貰わないようにしていたのだろう。
要は堀口のスタイルに対して自分から無闇に攻めるとその分隙が増えて堀口につけ込まれるので、もっと一方的な試合になるから、ディフェンス的な動きをしたのだ。
堀口からしたら飛び込み"際"や立ち上がり"際"だけ警戒すればいい試合になり、あのような内容になったのだろうと思う。
ペティスの誤算は3ラウンドを過ぎても堀口のスタイルを完全に見切れなかったことと、打撃、特にジャブの差し合いで負けていたところだろう。
ペティスのジャブは完全に見切られており再三堀口にカウンターを合わせられていたので、堀口陣営の作戦はペティスのジャブに合わせて強打を打ち込みペティスのペースにさせないのがATTの作戦だったように思える。
3ラウンドを取られたら判定でも勝てないのであそこを取られた時点でペティスは苦しかった。
しかし、全く慌てる様子が見られなかったのでセコンドから1ラウンドの時点でこの圧倒劇になるかもしれないと言われていたのかもしれない。
そう思わせるほど慌てる様子が見られなかった。まるでこの堀口の圧倒劇も想定内かのように。
堀口のあのスタイルに初見で対応するのは非常に困難で、元々打投極を兼ね備えた堀口にまともに付き合ったら今回以上の一方的な試合内容になることは明らかである。
だからペティスは徹底的にディフェンスに徹した。ガードを固めフェイントに反応せず、堀口の飛び込みにもカウンターは合わせるものの深追いはせずただガードを固めて堀口の目をしっかり見ながらポーカーフェイスでバックステップする堀口にビタリと張り付いて、堀口の打ち終わりや立ち際やテイクダウンに来たタイミングでのみ積極的な攻撃をする。
この動きをすることでペティスは堀口から致命的なダメージを貰う事なく、堀口に「際」での攻撃を警戒させプレッシャーと運動量を上げさせて削っていった。
ここで少し振り返ってみよう。
1ラウンドからガチガチにガードを固めてプレッシャーをかけていくペティスに対して普段通りの伝統派の構えで対峙する堀口。
自分から積極的に手を出さず、堀口の踏み込みに対してカウンターを当てる動きに徹していたペティスだったが、カウンターがあまりヒットせず、試合全体で見ても1ラウンドにローに合わせた右ストレートくらいだった。
これもローを打つ時に堀口は画面のガードを固めるのだが、この時はガードが緩かったのでペティスも打ち込んだのだろう。
それ以外は堀口の踏み込みに対して手を出すものの深追いはせず、むしろ堀口からのカウンターを警戒してガードを固めたまま距離を詰めてプレッシャーを強めていた。
4ラウンド目まで堀口は基本的に打撃を打って相手が打撃に反応したら刻み付きから朽木倒しでタックルに入ってテイクダウン。そのままコントロールしていた。
この流れを3ラウンドまで繰り返していたが、4ラウンドに入ってから一気に堀口の動きが落ちる。
一度テイクダウンに成功するもペティスの蹴り上げや三角を嫌いスタンドに戻る。
この後、再三テイクダウンに行くが全て対応されて更に削れたところを離れ際にハイキックからのバックブローで1発KO
今年1の逆転劇となった。
これについては、ラッキーパンチとの意見があるが、バックブロー自体はこの試合で結構見せており、堀口のカーフに対してバックブローやハイキックから後ろ回し蹴りや、クリンチしながらのハイキックと、このフィニッシュと同様の動きは序盤からしていたので、恐らく練習していたのが自然と出たのだろう。
ポイント1
固いガードとフェイントを無視して圧力をかける
ポイント2
"際"でもディフェンスを意識しながら必ず攻撃をする
ポイント3
攻撃をした際に単発で終わらせない
この3つの軸でペティスは逆転勝ちをモノにした。
このブログの勝敗予想で堀口勝利を予想したが、その時の不安要素が見事に的中した形となった。
それが、堀口は伝統派空手の動きでMMAをしており、その最大の弱点は距離で攻防を行っているので純粋な撃ち合いの技術ではペティスに負けているといった内容だった。まさに伝統派空手の弱点をついた見事な一撃だった。
こうなるのは見えていたし、試合中も何度もフィニッシュブローを見せていたのに対応できなかったのはペティスに削られていたのとセコンドのミスが大きいだろう。
これはTwitterで随分前に呟いたことだが、基本的にATTは落ち目のジムである。
今のATTは選手の長所を伸ばすより、今ある武器で作戦を組み立てようとする。だから敵陣営にゲームプランがバレやすいし、試合前と後で成長していないから簡単に勝ち筋を潰されてしまう。
今回の堀口がいい例だろう。
結局フェイントに反応されずガードを固められたら撃ち合いの技術がない堀口は打撃を餌に寝技をするしかない。
しかし、下からもうるさいペティス相手に中々試合を決める攻撃ができないので攻めあぐねてしまう。
そこを悠長に待ってくれる相手ではないのでどんどんプレッシャーをかけて対処を迫ってくる。結果的に体力が削れ、あの結果につながってしまった。
これが寝技のスキルをもっと高めたり、撃ち合いの技術が高くなっていれば結果は変わっただろう。
確かに内容は圧倒的だった。実際、実力差もあるだろう。しかし、試合内容に見るほど実力差があるわけではなく、ディフェンスに徹したペティスと、"際"の反撃さえ気をつければ好き放題にできる堀口だったからこそこの試合内容になっただけであり、相手が違えばペティスの動きも全く違うので実力差がこの試合で見るほど無いのが分かるだろう。
最初から一貫したゲームプランを遂行し、どんな場面でも冷静さを保ち、相手のゲームプランまで考えながらアドバイスをしていたセコンドに加えてよく相手の動きをみながら試合をしていたペティスと、新しい武器もなく、突破力も上がってなく、相手の動きをみらず相手のゲームプランも見抜けないセコンドがついていた堀口。
実は試合が始まる前から勝敗は決していたのかもしれない。